ニュージーランド在住20年のあどぼうずです。
ラグビーファンのみなさん、日本でのラグビーワールドカップは盛り上がりましたね。全日本ラグビーが予選通過、ベスト8の快挙、素晴らしいでした!
全日本のジェイミー・ジョセフ監督の続投のニュースも嬉しいですね。この先4年間2023年の次回のラグビーワールドカップまで日本の監督を続けてくれるそうですね。
一方、ニュージーランド代表ラグビーチーム「オールブラックス」は、3連勝を逃してしまいましたね。
しかし、予選で南アフリカに勝ったオールブラックスは、いまだに世界ランキング2位です。ちなみに、日本は8位です。(2019年11月19日現在)
もっと詳しく世界の男子ラグビーのランキングを見たい方は、こちらからどうぞ。(英語版ですが)
しかし、みなさんは、ニュージーランドはラグビー強豪国だから、ニュージーランドでは「ラグビー」が盛んだと思っていませんか。確かにラグビーは高校での「花形スポーツ」です。
高校ラグビーの1st XV(ファースト・フィフティーン)とは
ラグビーが強い男子高校では、1st XV(ファースト・フィフティーン)の選手に選ばれるのは特別な意味があります。「オールブラックスの選手になる可能性に一歩近づく」と言っても過言ではありません。
高校の上級生の中から選ばれたトップチーム(Aチーム)。高校ラグビーは1チーム15人制なので、XV(フィフティーン)は15人の意味。
(注)高校の規模が小さく、ラグビー部員が少ない高校は下級生でも1st XVに入れる場合もあります。
「1st XV」のラグビーの試合はテレビで全国放送されたり、スカウトマンも見にやってきます。スカウトされた選手は、プロチームの「ユース練習」などに参加させてもらえます。
こうやって才能のある男子高校ラグビー選手が、着々と力をつけオールブラックスの道へ近づいていくのです。
男子高校ラグビー選手の減少
ニュージーランド高校ラグビー選手にとって、一見華やかな「オールブラックスへの道」なのですが、実は男子高校のラグビー選手は減少しているのです。
未来のオールブラックスを背負って立つ高校ラグビー選手の減少は、ニュージーランドラグビー界にとって致命的なことです。
『NZ高等学校スポーツ協会』<New Zealand Secondary School Sports Council(NZSSSC)>から出された統計を見てみましょう。
年 | ニュージーランド高校生ラグビー選手数(男女合計) |
2014年 | 28,909人 |
2015年 | 28,105人 |
2016年 | 27,261人 |
2017年 | 26,951人 |
2018年 | 25,317人 |
2014-2018年 | 3,592人減少(12%減少) |
- ラグビーワールドカップ2連覇を達成した2015年以降も、男子高校ラグビー選手の減少は止まらなかった。
- 2014-2018年の4年間で3592人減少(12%減)
- 2017-2018の1年間で1634人減少(6%減)
- 女子高校生ラグビー人口は、2016年以降増えている
- 2018年にはバスケットボール人口(26,481人)の方が、ラグビー人口(25,317人) より多くなった
ニュージーランドラグビー協会(NZR)のレポート
男子高校ラグビー選手の止まらない減少をうけ、今年2019年に1月には、ニュージーランドラグビー協会(NZR)から、高校ラグビーに関するレポート 『REVIEW OF NEW ZEALAND SECONDARY SCHOOL RUGBY』 が公開されました。
高校ラグビーに関わる団体が多すぎる
上記のレポートを書いたピーター・ガル氏(Peter Gall)は、組織構造の問題だと指摘しています。ニュージーランド高校ラグビーに関わっている団体が多すぎるのです。
- ニュージーランドラグビー協会ーNew Zealand Rugby(NZR)
- 地方のラグビー組合ーProvincial Union (PU)
- 上記PUのジュニア委員会ーPU teenage and Junior Advisory Boards (JAB) committees
- NZ高等学校スポーツ協会ーNew Zealand Secondary School Sports Council(NZSSSC)
- 地方の高等学校スポーツ団体ーRegional secondary school sports organisations
- 学校長協会ーPrincipals and Principal Associations
各団体の役割が細分化されすぎて、高校ラグビーがきちんと統治されていないのです。
高校ラグビーVSラグビークラブVSラグビー組合
そして、ピーター・ガル氏は、「高校」「ラグビークラブ」「ラグビー組合」の3団体がそれぞれ反面し合っているといっています。
ラグビーに詳しくないわたしでも、ニュージーランドに住んでいれば3団体の思惑が読み取れます。
ラグビー強豪高校っていい評判になるもんね。上手な高校ラグビー選手を手放すわけないでしょ。
高校によっては入学時に「ラグビーするなら、学校のラグビー部に所属する」という誓約書にサインをしなければなりません。うちの息子も高校入学時に、サインしました。
クラブのために上手な選手が欲しいな。うちのクラブでプレイしてくれる高校生選手いないかな。
ニュージーランドには、ラグビークラブもあります。大人のチームでは、いつでも上手な選手を探し求めています。アマチュアラグビーといえども、海外からラグビー選手を招待しているクラブもあるんですよ。
強い高校選手をいつも物色しているよ。組合傘下のプロチームで養成して、いずれはオールブラックスへ送り出したい。
ピーター氏はニュージーランドラグビー協会が、高校ラグビーを統治するリーダーシップを取るべきだと提案しています。
男子高校ラグビー選手がラグビーをやめる理由
上記のレポート作成にあたっては、高校ラグビー選手にもアンケートを取っています。 彼らがラグビーをやめる「生の声」を見ていきましょう。
- ジュニアと1st XVのレベルが大きすぎる (せっかく1st XVに選ばれてもついていけない)
- 試合のレベル分けが適切でない(リーグ戦で1チームが常勝してしまう)
- (年齢、体重などの)制限がありすぎて柔軟性がない
- 真剣すぎる試合ばかり (カジュアルな試合でプレイしたい)
- 大差で敗けて自信をなくす (楽しくないし、モチベーションが上がらない)
- ラグビーで脳しんとうを起こしたなどというニュースを聞いた
- 怪我をしたくない
- 体格の差、成長の時期が違う(身体が小さい)
- 下級生のころから1st XVに入るために努力してきたのに、ラグビー奨学生が中途入学してきて1st XVのポジションを取られてしまった
- 他のスポーツに移る(バスケなど)
- コーチが嫌いだった
- 友達と遊ぶほうが大事になってくる
- バイトを始めるようになった(練習や試合とバイトの時間が重なってしまう。)
- 勉強が忙しい
ラグビーだけじゃなく、高校生が他のスポーツをやめる理由と同じですね。
ラグビーは激しくぶつかり合うスポーツなので、「体格の差」や「頭の怪我をさせたくない」という理由で、ニュージーランドでは親が子供にラグビーをやめさせる場合もよくあります。
わたしも、この理由で小柄な息子たちにラグビーを勧めなかったよ。
華やかな世界最強オールブラックスの裏で、ニュージーランドの高校ラグビーには、簡単に解決できない問題が山積みなのです。
長文、最後までお読みいただき、ありがとうございました。