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【コロナウイルス対策】ニュージーランドが厳しいロックダウンを可能にしている15の理由

COVID-19

現在、ニュージーランドではコロナウイルス対策として《Elimination》撲滅対策を取っている。「撲滅」とは言葉通りコロナウイルスを叩き潰すということだ。感染者を一人も見逃さないという強い意志のアーデン首相の元、今ニュージーランドでは厳しいロックダウンの真っ最中だ。

多くの国が《Suppression》抑制対策を取っている中、ニュージーランドでは撲滅対策を採用した。簡単なことではない。どこの国でもできることではない。今回は、なぜニュージーランドが厳しいロックダウンを可能にしているのか、その理由を書いてみたいと思う。

①経済より国民の命が最優先

どの国にとっても当たり前のことだが、ニュージーランドにコロナウイルスが入ってきたとき、政府は国民の命を優先した対策を取り始めた。経済よりも、国民の大好きなホリデーよりもなによりも、人命が優先される撲滅対策だ。

アーデン首相いわく、

Sharp and short!(厳しい対策を短期間で!)

もちろん経済のことも忘れたわけではない。できるだけ早くコロナウイルスを終息させ、経済回復にいち早く取りかかるというスタンスだ。

このことは、大多数の国民が理解している。少数派の違法者を除き、国民はこの厳しい4週間のロックダウンを乗り切ろうと努力している。

②総人口がたったの480万人

ニュージーランドの総人口は480万人程度だ。福岡県や北海道の人口より少ない。厳しいロックダウン時に、急を要する政府から国民への伝達や、警察が取り締まるにも、このこじんまりとした人口は有利だ。

③国土面積が狭い島国

ニュージーランドは国土面積がたった270,467㎢しかない小さな島国だ。おまけに地球儀には忘れられそうな南半球の南端に位置し、空路と海路を断てば自国隔離には有利な場所にある。

④厳しいバイオセキュリティ―が定着している

ニュージーランドの税関は厳しいので有名だ。《Border Patrol 》という国境(国際空港とか港とか)警備の様子を扱った番組がある。

  • 持ち込み禁止のリンゴ1つ持ち込んで罰金ニュージーランド$200を取られた観光客が、リンゴより真っ赤な顔で怒っていたり
  • 「薬です」と言って爬虫類のしっぽ持ち込んで没収されてる
  • 警備員が船便で着いたコンテナを開けて、ニュージーランドに生息しないない蜘蛛を発見したり

とか、そんな内容の番組だ。

なんでこんなに国境の取り締まりが厳しいかというと、ニュージーランドは第一次産業保護国だから。ニュージーランドにはない病原菌や生息していない昆虫などが入ってくるのを防ぐためだ。

こんな土壌がすでにあるから、政府も国民もコロナウイルスが発生する前から、バイオセキュリティ―感覚が身についているのだ。

⑤自家用車社会で公共交通機関がポピュラーではない

ニュージーランド国民の主な移動手段は、自家用車だ。鉄道システムは日本みたいに確立されていないし、大都市以外では乗客用鉄道は必要とされていない

人との接触が避けられない電車に乗る習慣がないだけでも、電車社会、地下鉄社会の日本やニューヨークなどと比べ、コロナ感染拡大の可能性は低いはずだ。

その他の公共交通機関として長距離バスやフェリーもあるが、ロックダウン開始当初に運行中止になった。ロックダウン中は物資輸送や医療関係のみで使われている。

⑥みんなががみんなを知っている&おせっかいな国民性

ニュージーランドで厳しいロックダウンが可能なのは、国民性によるところも大きい。

みんながみんなを知っている

ニュージーランドでは、よく「Everyone knows everyone!」というフレーズを聞く。「みんながみんなを知っている」という意味だ。

ニュージーランド国民が「あの人知ってるよ!」といった場合、「私のいとこの隣の家に住む奥さんの妹」でも知っていることになってしまうのだ。

私もニュージーランドの住み始めて、地元の公立高校で働き始めたときに、いろいろな人から「あなたのこと知ってるわよ」と声をかけられたものだ。こっちは全然誰だか知らないのに。「隣の家の高校生が、新しい日本語の先生が来たって言ってたわよ」とかいうパターンが多かった。

おせっかいな国民

加えて、ニュージーランド国民はいい意味でも悪い意味でも「おせっかい」だ。日本人だったら「そこまで他人に干渉しないでしょ!」ということまで首を突っ込んでくる。

私が受けた忘れられないおせっかいを1つ上げてみる。

2つしかない公衆トイレに入って、用を足しているときにトイレットペーパーがないことに気づいた。すると隣のトイレから「そっちのトイレ、トイレットペーパーないでしょ?こっちの少しあげるわよ」という声が。隣に入っている女性が、仕切りの板の下から一回分程度の切ったトイレットペーパーを差し出してくれたのだ。

「さんきゅー、さんきゅー」と言って用を足し終えトイレから出ると、トイレ待ちをしていた別の女性が「こういうのってニュージーランドよねぇ」と大笑いしていた。「ホント、そうですよねぇ」と言って私も大笑いしたことがある。(実際は私の町の名前を言っていたのだが)

防衛庁局長もニュージーランドの国民性をふまえ、記者会見でロックダウンの注意点として「隣人とのフェンス越しの貸し借りはしないようにね」と注意を促していた。

ロックダウン時にはニュージーランドの国民性がありがたい

ニュージーランド国民はふだんからプチストーカー、ゴシップ好きだ。

  • 隣に住む一人暮らしのおじいさんに「スーパー行くけど、なにか必要なものある?」
  • 公園で若者がどんちゃん騒ぎ。即警察に通報。
  • お宅の羊が道路に飛び出してたわよ。
  • あなたの姪御さんお元気?何歳?今何してるの?

ロックダウンに伴いニュージーランド警察が違法者通報用のサイトを設けたが、通報数が多くサイト立ち上げ数時間でパンク状態に。ニュージーランド国民はチクることに慣れている。ロックダウン2週間たった2020年4月7日でも違法者の警察へのチクり数は3,700件もあった。

などなど、日ごろから「おせっかいで、みんな知り合い」体質のニュージーランドの国民性が、今のロックダウンにはいい方に働いている。

⑦ニュージーランドはキャッシュレスが定着

ニュージーランドはカード社会だ。現金を持ち歩かず、どこに行ってもカードで支払いを済ます。月々の光熱費、電話代、税金などはオンラインバンキングで支払う。

カード支払い、オンラインバンキングに慣れているニュージーランド国民は、ロックダウン時に、スーパーに行って店員と現金のやり取りで接触することがない。現にロックダウン時にスーパーでは現金支払いは認められていない。

⑧オンライン教育が定着済み

ニュージーランドは10年ほど前からテクノロジーを使った授業を推進している。学校では生徒1人にデバイス1台を目標としていた。

うちの息子たちの例を挙げてみる。

  • 2012年頃、小学校高学年だった長男のクラスでは、すでに生徒1人にデバイス1台が与えられていた。その時PTAをやっていて、役員たちが安いデバイスを探していたのを覚えている。
  • 2015年頃、小学3,4年生だった次男は、すでに学校でGoogleドライブの使い方を習っていた。
  • 今高校生の2人の息子は、学校に自分のデバイスを持参し、筆記はノートにではなく自分のPCに。課題や宿題はGoogleドライブで共有され、レポート提出は先生のメルアドに送っている。

ロックダウンがあってもなくても、ニュージーランドの生徒も教師たちもオンライン教育には慣れているわけだ。

⑨政治家や官僚たちがテクノロジーに慣れている

ニュージーランドの政治家官僚たちも、もちろんテクノロジーに慣れている

コロナウイルス発生後、政治家や官僚たちはZoomなどでリモート会議を始める。アーデン首相自らも、自身のFacebookでトレーナー姿で自宅から国民にメッセージを送ったり、ライブ中継をし国民から書き込まれた質問に回答したりと、コロナウイルス対策にSNSを充分に活用している。

⑩過去の事例やWHOの資料を徹底的に調査

他の国でももちろんやってることだろうが、ニュージーランド政府は過去のパンデミック事例やWHOの資料を徹底的に調査していることがうかがえる。経済回復例なども含めてだ。記者会見での首相や厚生省官僚などのコメントから、しばしばうかがえる。

世界に出回っている多くの資料は英語で書かれているものが多い。やはり英語圏ということで、豊富な資料集めは迅速なのだろう。

⑪コロナウイルス終息後に予算改正の余地がありそう

ニュージーランド政府は、コロナウイルスにより損失が出たビジネス(事業主、フリーランス、従業員等)に、GDPの40%にあたる救済金を出すことに決めた。それは、コロナウイルス終息後、国民が返済していかなければならない国の負債だ。GDPの40%だ。

それでも、福祉国家のニュージーランドには予算改正の余地がある(と私が勝手に思っている)。経済のド素人の私が思いつく改正の余地ある国家予算を挙げてみる。

①大学1年生への授業料無料を廃止する

労働党が政権を取ってから、大学1年生の授業料は無料ということになっている。大学生にとってはありがたい制度だが、野党から反対案も出ていたり、だれもかれもが無料なら大学行こうかなと目的もなく入学してしまうというケースも多かった。数年後「あれっ?やりたいことと違うな、大学辞めよう」という大学生が、私の周りにもなん人もいる。

②Kiwisaverへの補助をやめる

《Kiwisaver》とは、ニュージーランドの任意国民年金制度のことだ。

  1. 国民が積み立てる年金に対して、政府は国民1人につき年間$521.43を上限とし寄贈している。
  2. 企業は、従業員が給料から天引きで積み立てている年金額の3%の寄贈が義務付けられている。

他にも、歯医者は18歳まで無料とか、公立病院での出産は無料(私も2回の帝王切開出産は無料だった)など、ニュージーランドの福祉は手厚い。

③相続税の復活

ニュージーランドは、ずっと以前に相続税を廃止している。相続税復活の可能性もあるかもしれない。

④不動産キャピタル・ゲインへの課税

ニュージーランドには、不動産キャピタル・ゲインへの課税がない。労働党が現政権を取ったときに、この税の導入を検討していたが、現副首相で連立政党NZファースト党のピータース党首が猛反対して否決されたという経緯がある。

できれば、現行予算のままにしてほしいところだ。だが厳しいロックダウンを国民に課すために、莫大なコロナウイルス対策費が国家予算から使われた。そのツケを払うのは国民ということになる。

⑫厚生省局長が国民のパニックを抑えている

NZ厚生省局長Dr. Bloomfieldの歌 (Youtubeより)

厚生省のトップ、Dr. Broomfield局長が、ニュージーランドにコロナウイルスが入ってきて以来、毎日午後の1時に記者会見を開いている。「Dr. Broomfieldショー」と呼ばれるくらい人気で、彼の会見は定着したものとなっている。常に落ち着き払っていて、手元の資料にもほとんど目を通さずに会見し、質問にも的確に答える。

優しい口調だが、ニュージーランドのコロナウイルス状況に対して楽観視していない。ロックダウンの初期に新たな感染者数が減った日があった。「単に検査を受けた人が少なかったからで、今後も感染者数は増える」と国民の甘い期待をバッサリ。

Dr. Broomfield局長の冷静な人柄が、厳しいロックダウン下のニュージーランド国民のパニックを抑えているといっても過言ではない。最近、歌までできてしまった。

⑬防衛庁局長が災害対策の達人

記者会見にしばしば登壇する防衛省のトップ、局長のStuart-Black女史の存在も、ニュージーランドのコロナウイルスへの迅速な対応に大きく貢献している。Wikipediaから拾ってきた情報を要約してみる。

  • 国連のUNDAC(「突発的災害対策委員会」とでも訳そうか)に9年間所属
  • 2014年、防衛庁局長就任以来、クライストチャーチのモスク襲撃事件、山火事、地震、White Islandの火山噴火に対応
  • 元看護婦(ニュージーランドとイングランド)
  • 災害マネージメント博士号取得

こんな経歴を持った人物が、ニュージーランドのコロナウイルス対策に携わっているのは本当の心強い。

⑭ニュージーランドは世界一政治がクリーンな国

世界各国の政治のクリーンさを表すのに「腐敗認識指数」《Transparency International》というのがある。2019年、ニュージーランドは180ヵ国中でデンマークと並び世界一である。この指数公開が始まった2012年以来、ニュージーランドは常に上位に位置している。

政治がクリーンということは、正確な情報をできるだけ多く国民に提示することだ。今回のコロナウイルス対応についてのニュージーランド政府がどれだけの情報を国民に公開しているか例を挙げてみる。

毎日1pmのコロナウイルス状況報告

毎日1pmからコロナウイルスに関する記者会見がある。毎日1時だ。厚生省のDr. Broomfield局長がほぼ毎日会見する。報告される感染状況は、以下のようなものだ。

  • コロナウイルス感染者総計
  • 新たな感染者数
  • 感染可能性大の患者数
  • 入院者
  • ICU使用者
  • 重篤者
  • 死亡者
  • 1日の回復者
  • 回復者総計
  • 前日の検査数
  • 過去7日間の平均検査数
  • 感染経路の比率(海外帰国者、感染経路不明、等)
  • クラスターについて
  • 人種ごとの感染者の比率

会見で発表された数字は、毎日厚生省のサイトにアップされている。クラスター詳細、地域ごと、全感染者の詳細リストなども載っており挙げるときりがない。

日によっては、アーデン首相、財務大臣、防衛庁局長、警察本部長、教育大臣の面々も登壇し、記者からの質問にも答える。

コロナウイルス対応委員会の議長は最大野党の首相が就任

専門家を集めたコロナウイルス対応委員会があり、議長は最大野党ナショナル党の党首が務めている。通常時は政敵の野党党首だ。

最悪のパンデミック対応時に、政党同士で争っている場合ではない。最大野党のナショナル党もコロナウイルス撲滅対策の協力を誓った。

⑮アーダーン首相の強い意志と励まし

ニュージーランドの厳しい4週間のロックダウンが実現しているのは、アーダーン首相によるところが大きい。首相は、ニュージーランド政府が打ち出した当初のコロナウイルス対策を貫き続け、毎日国民を励ましている。

私もときどき「こんな厳しいロックダウンをしていて、ニュージーランドのコロナウイルス対策が失敗したらどうするんだろう」という気持ちで押しつぶされそうな時がある。

それでも、初心を貫き、決して楽観視せず、奢らず、ニュージーランド国民のことを第一に考えているアーダーン首相からの言葉に、国民は勇気づけられ、自分たちが今していることは正しいんだと実感できる。

以上のことが、私が思う「ニュージーランドが厳しいロックダウンを可能にしている15の理由」だ。

ニュージーランドだけでなく、世界中で自国にとってベストだと信じるコロナウイルス対策を取っているはずだ。本当に本当に、世界中のコロナウイルスができるだけ早く終息しますように。

長文お読みいただきありがとうございました。