いまニュージーランドはコロナ対策が成功している国のひとつとして、各国から高い評価を受けている。小さな島国で人口も多くないという有利な点もあるが、それだけではない。
大きな理由は2つある。
- アーダーン首相の高いコミュニケーション力
- 政治がクリーン
ということだ。今回はニュージーランドがコロナ撲滅に成功しつつある理由を、この2点に絞って詳しく書いてみる。
コミュニケーション力が高いアーダーン首相
ニュージーランドのアーダーン首相は国民とコミュニケーションを取るのがうまい。記者会見では、日本の国会のように司会進行役もつけず、記者からの電撃的質問に対応する。
さらに驚くことは、アーダーン首相はほとんどの記者の名前を憶えていることだ。会見後には、記者たちが一斉に質問をし始めるが、アーダーン首相は学校の先生よろしく「はい、ジョンどうぞ、次はサラね」と仕切っていく。
前々首相のヘレン・クラーク女史の言葉
アーダーン首相と同じ労働党の元党首であり前々首相のヘレン・クラ―ク女史が、世界でもまれな厳しいコロナ対策を取っているアーダーン首相について述べた。
ジャシンダは国民にお説教するんじゃなくて、一緒に立ち向かってくれるの。
“doesn’t preach at them; she’s standing with them”
ヘレン・クラーク女史の言葉
ニュージーランド国民はたとえ政府のコロナ対策をよく理解していなくても、アーダーン首相がついていてくれるから!って思えるの。
“They may even think, ‘well, I don’t quite understand why [the government] did that, but I know she’s got our back’. There’s a high level of trust and confidence in her because of that empathy.”
ヘレン・クラーク女史の言葉
アーダーン首相をコミュニケーターと称えるクラーク元首相も、コミュニケーションの達人だ。首相退任後は、国連開発計画の総裁を2期務めたコネクションを使い、コロナ撲滅のために国連やG20の国々に世界協力を打診している。
アーダーン首相の国民へのメッセージがはっきりしている
ニュージーランドが厳しいコロナ対策を取り始めた当初から、アーダーン首相のメッセージはとてもシンプルではっきりしている。
Stay Home(家にいよう)
「NZのコロナ対策スローガン」アーダーン首相
Save Lives(命を守ろう)
Be Kind(人にやさしくね)
You are not alone. (独りじゃないよ)
(ロックダウンが始まるにあたって)アーダーン首相
あいまいなことは言わない。記者会見でも手元の原稿をほとんど見ずに話す。自分の言葉で話す首相に国民がついていくのは当然だ。
アーダーン首相はSNSの達人
アーダーン首相はSNSの達人だ。SNSを上手に使って国民とコミュニケーションを取っている。
①Facobookでライブ中継
Facebookではロックダウン開始後、子供を寝かしつけた後にトレーナー姿でライブ中継をしたのはに日本でもニュースになった。ライブを見ている国民からの質問メッセージにその場で答える。ちなみに、この日の日中にアーダーン首相は公式記者会見をしていて、ロックダウンについて国民に説明したばかりだったのだ。
②Facebookで個人へメッセージ
英国首相のジョンソン首相がコロナに感染したのは記憶に新しい。ジョンソン首相が退院したときに、看護師全員の名前を挙げて感謝した。そのとき48時間ICUで看護にあたった看護師の1人がニュージーランド人のジェニーだった。アーダーン首相は、ジョンソン首相の会見当日、Facebookを通してジェニーに絵文字付きのメッセージを送ったそうだ。
③インスタグラムではプライベートな一面も
アーダーン首相はインスタグラムも使っている。今の時期はもちろん国民へのコロナ対策への喚起が主な投稿だ。しかし時には、プライベートな一面も見せてくれる。
- 子供のおむつトレーニングがぜんぜんダメ
- 同じ女性でコロナ対策が成功中のデンマークのフレデリクセン首相との電話会談
- 自分の仕事部屋の写真
- 羊の毛刈り大会を見に行った
などの写真も投稿している。
④コロナ対策の一環として著名人と対談ライブ
ニュージーランドがコロナ撲滅のために5週間の厳しいロックダウンに入ってすぐ、アーダーン首相は心理学者であり子育てカウンセラーのNigel Latta氏と対談ライブをおこなった。ロックダウンの影響で心配される国民のメンタルヘルスのためだ。
その他、人気子供番組のお姉さんや実業家たちともライブ対談をこなしている。
アーダーン首相のコロナ対策が支持されているのは国民へのメッセージがはっきりしているから
ここで勘違いしてほしくないのは、多くの国民がアーダーン首相を支持するのは、首相がフレンドリーでプライベートな一面を見せてくれているからではない。ニュージーランド国民の目は、政治に対してそんなに甘くない。
ニュージーランドのコロナ対策が国民に支持されているのは、アーダーン首相のメッセージはだれにでもはっきりと理解される内容だからだ。
政府からのコロナ対策へのメッセージもはっきり
アーダーン首相だけでなく、ニュージーランド政府から発信されるコロナ対策についてのメッセージも分かりやすい。国民はコロナに関して、自分たちの国、ニュージーランドでなにが起こっているのかを理解することができる。
①毎日午後1時のコロナ状況報告会見
ニュージーランドではロックダウンが開始される前から、政府は毎日午後1時にコロナ状況報告の記者会見を国営テレビで放送している。(ニュージーランドの国内コロナ感染者数が落ち着いてきてからは、週末や祝日は記者会見がない日もある。)
コロナ発生当初からほぼ毎日登壇するのは、厚生省保険局長のDr.Bloomfield氏だ。基本的に、彼が毎日午後1時にニュージーランドのコロナ感染状況を国民に伝えている。
お茶の間の国民は毎日1時になるとコロナ状況報告をテレビで見るのが日課となっている。とくにロックダウン中で家から出られなかったときは、毎日同じ時間に公衆衛生のエキスパートがテレビの前でコロナ状況を報告してくれるというのは、国民に安心感を与えるものだ。
②閣僚も頻繁にコロナ会見に登壇する
必要があれば、アーダーン首相や官僚たちもコロナ関連の記者会見に頻繁に登壇する。こんな時だ。
- ニュージーランドで初めてコロナ感染者が亡くなったとき
- 鎖国やロックダウンを決定したとき
- 国民にコロナ対策を喚起するとき
- コロナ被害の給付金発表
- 中小企業への無利子ローン発表
- オンライン授業のサポート説明
- 海外からの帰国者状況報告
などの官僚たちが、ことあるごとにコロナ記者会見に登壇している。
コロナ会見や官僚会見は文字に起こされ、政府のウェブサイトにも公開される。しかし、コロナで不安になっている国民にとっては、文字で伝えられるのと、国のトップたちがが国民を励ましながら自らの口で正しい情報を伝えてくれるのは、安心感が違う。
③記者会見は電撃質疑応答
ニュージーランドの記者会見や国会では司会進行役などいない。コロナの記者会見も同じだ。各登壇者が自分の原稿を持ってくる。記者からのコロナに関する質問も電撃的だ。記者からの質問に答えるための資料が手元にないときは「今は資料が手元にない。次回に用意してくる」とはっきり言う。
④ニュージーランドのコロナ記者会見はコロナの話だけ!
当然のことだが、ニュージーランドのコロナの記者会見はコロナの話しかしない。記者からの質問もコロナに関することだけだ。
私が見てきたコロナ会見の中で、くだらないことを質問する記者がいるなと思ったのは2回だけだ。
- G5がコロナの原因か。(G5がコロナの原因というデマが出たのを受けて)
- 除菌剤を注射するということについてどう思うか。(トランプ米大統領が言った冗談を受けて)
質問を受けた厚生省保険局長は「その質問に答える必要はないと思う」と一喝して終わり。くだらない質問に時間を割かない。記者たちもコロナ関係の質問に終始する。
コロナ記者会見なのに、コロナじゃない話ばかりする国のトップもいる。
アメリカの首相会見を見ていると、州党主批判、WHO批判、中国批判などで、コロナ対策に直接関係ない話に時間を割いているなあと思う。
日本の国会では、司会進行役が質疑応答をコントロールし、事前に挙げられた質疑に首相がもらった原稿を読み上げる。安倍首相がその日の感染者数聞かれて、答えられなかったのを見たときはがっくりした。
この世界的なパンデミック時に、そんな時間の無駄をしている政府が多いとは思いたくない。
ニュージーランドは世界で一番政治がクリーンな国
トランスペアレンシー・インターナショナル(国際透明性機構)というのをご存じだろうか。簡単にいうと、世界の国々の汚職度ランキングをつけている非政府組織だ。この団体が、毎年腐敗認識指数というのを発表している。
ニュージーランドは常に上位に位置し、2018,2019年は2年連続トップで、国家の汚職度が最も低い国として評価されている。
コロナがあるなしに関わらず、ニュージーランドはもとから政治がクリーンな国なのだ。政府が国民に対してクリーンということは、国民に対して正しい情報を隠さず、できるだけ公開していくということだ。
国民へコロナ対策を具体的に説明
ニュージーランドでは、アーダーン首相自らの声でコロナ対策を具体的に国民に説明してくれる。
外出を8割減らすなどと、抽象的なことは言わない。
- 集会は10人まで
- 公園に行ってはいけない
- スーパーへは家族から代表者一人
- 70歳以上は家から出るな
- 人と接触、対面する職業は営業停止、など
国民は自分たちのやるべきことが分かる。だれにとってもコロナウイルスは初めての経験だ。なにをしていいか戸惑ってしまう。そんなとき、国がはっきりコロナ対策を示してくれれば、吉と出るか凶と出るかは分からないが、国民は安心して政府の指示に従う。
ニュージーランドはアーダーン首相のもと全国民500万人(本当は485万人くらいのはず)が1つのチームになり、コロナウイルスと闘っているのである。
*この記事を書いた2020年5月4日は、ニュージーランドに初のコロナが発生してから66日目にして、新感染者数がゼロとなった。(国内ですでにカウントされていた濃厚接触者1人が感染確定者とはなったが。)